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今昔物語
十三
筑前国僧蓮照身令食諸虫語第廿二
今昔、筑前の国に蓮照と雲僧有けり、〈○中略〉諸の虫お哀て、多の蚤虱お集めて、我が身に付て飼ふ、亦蚊虻お不掃は、嶋蛭の食付くお不厭して、身の宍お令食む、而るに蓮照聖人、態と虻蛎多かる山に入て、我が肉血お施さむと為るに、裸にして不動して、独り山の中に臥たり、帥ち虻蛎多く集り来て、身に付く事無限し、身お喰む間、痛み難堪しと雲へども、此れお厭ふ心無し、而る間、身に虻の子お多く生入れつ、〈○中略〉聖人の夢に、貴く気高き僧来、〈○中略〉此の疵お撫で給ふと見て、夢覚ぬ、其後身に痛む所無くして、疵忽に開て、其中より百千の虻の子出でゝ飛て散ぬ、