[p.1149]
沙石集
七/下
無嫉妬之心人事
有人の妻まおとことねたりける時、夫俄にねやのうちへいらんとす、いかにしてか、にがさんと思て、衣ののみとる由にて、にがさんとてまおとこのはだかなるお、むしろにかひまひて、衣ののみとらんとて、すびつおとび越けるほどに、すべらかして、すびつにどうとおとしつ、男是おみて、目見のべ、口おほひして、のどかなる気色にて、あらいしののみの大さやと雲て、なにともせざりければ、勢は大なれども、小(こ)のみの如くも、とばずして、はだかにてはひにげにけり、