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除蝗錄
蝗の種類
貝原翁の大和本草に、螟(○)、螣(○)、件(○)、賊の四生お(○○○○○)蝗(いなむし)といふ(○○○)、いなごの類なりとあれども、稲に付虫は数生ありと見ゆ、〈○中略〉
螟(めい/○) 〓〓(しうとう)の集解お以見れば、いなごなり、心(しん)お食ふとあれ共、いなごの稲お害するは、心のみに非ず、葉も茎もくらへども、其害は却てすくなき歟と覚ゆ、
螣(とう/○) 俗にいふ、実盛虫也、茎葉の気お吸て、害おなす也、防かたは、松明にてやきと り、又油にて除べし、
件(ぼう/○) 売虫(からむし)といふ、是孟なるべし、是は能くでき花る稲に生ずる事多し、此虫の付たるは、出穂(でほ)の已前、くされたる苗おぬいて、是お見るに、根の聞に白きはだか虫あり、則是なり、故に度々油お入除べし、然して稲葉の新に出かゝりたる時、ぬいて見るに、白き根生じて、右のはだか虫は見えず、〈○中〉〈略〉
賊(ぞく/○) 売虫に似て、小なるおいふ歟、稲粟等の節お食ふ、故に出穂に至りて枯穂となる、
飛虫(とびむし/○○) 名おしらず、初の程は、至て小にして、其色赤く、蚤の飛が如し、蛻(ぬけかは)りてくり色に変じ、小蜘の尻に似て、両脇に飛虫あり、実盛虫とともに群集す、羽至て短し、是お防には油にしかず、
苗虫(なへむん/○○) 尺蠖(しやくとりむし)の類にして、年に依て、苗代に群生し、葉末より食下りて、甚害あり、或は葉お包みて中に入、後蛻りて羽生じ、飛事蜀(くは)虫の如し、〈○中略〉
ほう(○○) 稲粟其外にも群集して、穂お吸ふ、故に、秕(しひな)となる、其害少なからず、〈○中略〉
葉まくり虫(○○○○○) 蜀の種類ならん、菜虫に似て、其色薄青く、稲粟等の葉に付て食ひ、後ろ口より糸お出し、葉お巻て、其内に蟄す、〈○中略〉大風あれば、巣お吹破りて、自ら除事あり、又は羽化(ぬけかはり)て、蚊のうばの類の小蝶となる猶害浅し、
こぬか虫(○○○○) 涌が如く生じて、稲葉の根お食ひ、大ひに害おなす、其色青白なり、長じて羽あり、羅(うすもの)の如し、防方油にしくはなし、
小金虫(○○○) 壱分位にして、甲に光りある羽虫にて、昼は稲株に手まりの如く集り、夜は散て、稲の茎おくらひて、害おなす、〈○中略〉
右都て十種あり、〈○中略〉蝗おなべて、うんかと唱る所多し、