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万葉集略解
十下
蟋蟀、旧訓きり〳〵すとよみたれど、翁これお、こほろぎと訓り、〈○中略〉蜻蛚と蟋蟀は同物なれば、蜻蛚に古保呂木と有にて、古より蟋蟀にこほろぎの名有事しるく、今の世にも其名お伝へたれば、しかよむべき也、すべて集中蟋蟀と書るお、こほろぎと訓ざれば、飼余りて調べとゝのはざるお、こほろぎといふ名の、古今集以後の歌に見えぬおもて、疑ふ人あれど、此集によめる草木などの名の、後世にては絶ていはぬ名もあまたあれば、是のみ疑ふべきにあらず、〈○中略〉後世はたおりめの類なる一種の虫お、きり〳〵すといふは、いと後にいひ出し事なるべし、