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古今著聞集
五/和歌
花園左大臣家に始て参りたりける侍の、名簿のはしがきに、能は歌よみと書たりけり、おとゞ、秋のはじめに、南殿に出て、はたおりのなくお愛して、おはしましけるに、暮ければ、下格子に人まいれと仰られけるに、蔵人五位たがひて、人も候はぬと申て、此侍参たるに、たゞさらば女おろせと仰られければ、参りたるに、女は歌読など有ければ、かしこまりて、御格子おろしさして候に、此はたおりおばきくや、一首つかうまつれと仰られければ、あおやぎのと、はじめめ句お申し出したるお、さぶらひける女房達、折にあはずと思ひたりげにて、わらひ出したりければ、物お聞はてずして、わらふやうあると仰られて、とくつかうまつれとありければ、
あおやぎのみどりの糸おくりおきて夏へて秋ははたおり(○○○○)ぞなく、とよみたりければ、おとゞ感じ給て、萩おりたる御ひたゝれ、おし出して給はせけり、