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今物語
大納言なりける人、内へまいりて女房あまたものがたりしける所に、やすらひければ、此人のあふぎお、手ごとにとりてみけるに、弁のすがたしたりける人お、かきたりけるおみて、此女房ども、なくねなぞへそ、のべの松むし(○○○)、とくち〴〵にひとりごちあへるお、此人聞て、おかしとおもひたるに、奥のかたより、たゞ今、人の来たるなめりとおぼゆるに、是はいかに、なくねなそへそとおぼゆるはと、したりがほにいふおとのするお、この今きたる人、しばしためらひて、いと人にくゝいうなるけしきにて、源氏のしたがさねのしりは、みじかゝるべきかは、とばかりしのびやかにこたふるお、このおとこあはれにこゝうにくゝおぼえて、ぬしゆかしきものかな、誰ならんとうちつけにうきたちけら、〈○中略〉
大かたの秋の別もかなしきになくねなそへそのべの松虫