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源氏物語
三/空蝉
しばしうちやすみ給へど、ねられたまはず、御すゞりいそぎめして、さしはへたる御ふみにはあらで、たゞてならひのやうにかきすさみ給ふ、
うつ蝉の身おかへてげるこのもとになお人がらのなつかしき哉、とかき給へるお、ふところにひきいれてもたり、〈○中略〉いとあさはかにもあら蹌御気色お、有しながらのわが身ならばと、とりかへすものならねど、忍びがたければ、この御たゝうがみのかたつかたに、
うつせみのはにおく露のこがくれてしのびしのびにぬるゝ袖かな