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重修本草綱目啓蒙
二十七/卵生虫
虫白蠟(○○○) いぼたろう(○○○○○) 会津ろう(○○○○)
水蠟樹(いぼた)に生ずる虫の巣の蠟なり、水蠟樹は俗名いぼた、 こヾめばな、〈阿州〉うしたヽき、〈土州〉ねずみのまくら、〈雲州〉山野道傍に甚だ多し、樹高さ三四尺、希に丈余なる者あり、葉は長して両頭円なり、枝葉共に対生す、五月枝端ごとに花お開き穂おなす、長さ二三寸、枝ありて、小花簇り生ず、五弁、女貞の花に異ならず、後綠実お結ぶ、形円長、熟して黒色、鼠糞の形の如し、亦女貞実に似たり、其山中に生ずる者は、樹皮に白粉厚く纏ひ、綿の如く色白し、遠く望めば雪の如し、これ虫の巣なり、これおとすべり、〈播州〉とばしり、〈阿州〉やまおしろひ〈備後〉と雲、この粉お採り、戸障子の走り難に閾にぬれば、よくうごく、故にとすべり、とばしりの名あり、又能疣お治す、故にいぼたと名く、この粉お採り集め、水にて煎じ、布或は絹にて漉し、冷水中に投じて蠟とす、色潔白にして光りあり、甚堅し、擘き破れば、刷糸紋あり、これお虫白蠟と雲、古は多く舶来あれども、久しく渡らず、天明年中少しく渡る、元来外家に用ゆる蠟は、皆この物なり、然るに今は漆蠟お用ひて、膏薬お製するは宜しからず、唐山にては女貞樹に、この虫お養ふ、故に一名蠟樹と雲、本邦にても国により、自然と女貞樹にこの虫生ずることあり、肥前大村、備前西大寺にてこれおも、とすべりと雲、又秦皮(とねりこ)樹にも生ず、播州能州にあり、