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今物語
安貞のころ、河内国に百姓有けるが、子に蓮花王といひけるわらはありけり、七なりける年死けるが、念仏申て西に向て、かたはらなる人に、我死たらば、七月〈○月、一本作日〉といはんに、あけて見よと雲て死にけり、其後人の夢に、必あけよといふとみて、あけてければ、舎利に成にけり、是お取て、人におがませんとて、かりそめにちやうおして、入たりけるに、此帳おほどなく、むしのくひたりけるお見ければ、
帰命蓮花王 大聖観自在 広度衆生界 父母善知識とくひて、はての文字の所に、虫の死でありける、いとふしぎに、めでたき事也、