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古事記伝
十六
鰭広物鰭狭物は、波多能比呂母能(はたのひろもの)、波多能佐母能(はたのさもの)と訓べし〈然るに、広瀬大忌祭祝詞に、毛能和支物(けのにごきもの)、毛能〓支物(けのあらきもの)、鰭能広支物(はたのひろきもの)、鰭能狭支物(はたのさきもの)とあるお拠として、師は各此の如く、伎てふ辞お添て訓れしがども、伎と雲ては、よろしからず、必ひろものさものと雲べき言の格なり、故此言もろもろの祝詞に多かる、何れも支字あるはなし、右の広瀬祭なる一つにのみあるは、心得ぬことなり、〉魚の大きなる、小きお雲る、古の雅言なり、〈○中略〉童蒙抄に、海原の底まですめる月影にかぞへつべしや鰭のせばもの、古歌なり、鰭のせばものとは、小き魚なり、とあり、〈狭(さ)は世婆(せば)の切りたるなれば、せば物も同じ、〉