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皇都午睡
三編下
或人招請せられて行しに、鯉の差身お出す、かの客賞味して雲ふ、亭主の饗応至て深切なり、此鯉は淀の鯉(○○○)なりと思ふ、遠路の珍物一入辱なしと雲、亭主客おもふけて何の馳走なし、是一種の馳走也、しかし客早く淀の鯉の味知ること不思議なりと雲ふ、客曰、淀の鯉に一つの替りあり、外の鯉は煎酒に入て賞味するに、煎酒濁る也、淀の鯉は幾度入ても濁ることなしと答ふ、諸人其博識お感ず、評に曰、鯉お籠に入、早獺川に一夜置て調味すれば、泥お吐き清く成ゆえ、煎酒濁ることなしと、援お以て発明せり、淀川早瀬川なるゆえ、流に住魚うちに泥お貯へざるゆえ、其汁濁らずといふ、