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重修本草綱目啓蒙
二十九/魚
金魚 通名 一名黄蝋魚〈事物異名〉 蝋魚 金鱗〈共同上〉 赤鱗〈行厨集〉 盆魚〈福州府志〉 火魚〈三才図会〉 朱魚〈閩書〉
金魚は古へ本邦になし、元和年中異域より来ると大和本草に言へり、元和は後水尾帝の年号なり、唐山にも至宋始有以岡畜之者と雲ふ、今は人家に多く養ふ、魚近土則色不紅、鮮必須岡畜、岡宜底尖口大者為良と、秘伝花鏡に見へたり、金魚に鯽だちあり、金鯽なり、興化府志に、有二種、大者為金鯉、小者金鯽と雲ふ、鯉だちあり、ひごい(○○○)と雲、金鯉〈秘伝花鏡〉なり、函史に鯉一種、通身紅如金曰金鯉と雲ふ、一名金糸鯉魚〈附方、〉鯉魚の黄赤色なる者お赤鯉と雲とは別なり、まごいは頭円なり、ひごいは頭尖りて通身赤し、又白き者あり、大なる者は尺に過ぐ、又紅白相間り黒白相間る者あり、金鯽は形鯽魚に似て、鱗赤色にして金色お挟む、色品甚多し、養法と倶に郡芳譜及び秘縛花鏡に詳なり、春末雌魚子お孕す、まさに生ぜんとする時は、雄魚頻りにこれお趕ふ、その卵お食はんと欲するなり、その時聚藻(ふさも)お採りて盆内に入るれば、子お藻上に跌す、故に俗に聚藻お金魚もと呼ぶ、その藻おとり、日に映じ見れば卵あり、粟の大の如く透徹すること水晶の如し、此藻お取り、別に浅き瓦盆内に放ち、少水お入れ、微しく樹陰ある処に置て晒す、日お見ざれば生ぜず、然れども烈日お忌む、二三日の後便生ず、この事秘伝花鏡に載す、初て生ずる者は色黒し、至百余日後、黒者漸変花白、次漸純白、若初変淡黄、次漸純紅と同書に雲へり、色白き者は銀魚と呼ぶ、通名なり、群芳譜に、有紅白黒斑相間者、名玳瑁魚と雲ふ、三才図会に、中都有玳瑁魚、雪質而黒章、〓礫若漆、儼然玳瑁文采可観也と雲ふ、正字通に、吉安有一身、具五色者名手巾魚と雲ふ、又三才図会に、有半身赤者、有乱赤文者、有背赤文作卦形者、有頭赤尾白者、有鱗紅身白者、色象各各不同と雲ふ、嘉興県志に、本地所貴者、曰十二紅、以両腮両腹朱唇尾及各翼倶紅而体独白也、曰朱眼白質純白而眼独紅と雲ふ、尾に品類あり(○○○○○○)、鯽尾(○○)は鯽魚尾の形の如くなるお雲、即尋常魚尾の形なふ、下品とす、蝉尾(○○)は蝉翼の飛開する形の如きお雲又蝦尾(○○)とも雲ふ、次上とす、函史に、尾如〓、或三岐或南岐、曰金〓魚と雲ふ、閩書に、金篐魚最佳、魚三尾、如蝦身赤尾金と雲ふ、福州府志に、金篐魚盆魚中之三尾者と雲ふ、広東新語に、以鬣小三尾五尾者為貴、謂之蝦尾と雲ふ、扇開尾(○○○)は摺扇お開て並たる如し、又芙蓉(○○)とも雲ふ、広東新語に、尾又以撒開、象木芙蓉葉者為貴、謂之芙蓉尾と雲ふ、群芳譜に、有三尾者五尾者、甚且有七尾者、時頗尚之と雲ふ、〈○中略〉金魚お養ふに、あかこお用ゆ、秘伝花鏡に、河渠穢水内所生小紅虫と雲ふ、時珍の説に鯉鯽鰍鯵数種と雲ふ、鯵お群芳譜に鼈に作る、金鼈はらんちう(○○○○)なり、広東新語に錦鱗魚〈同名あり〉と雲へるも、らんちうなり、