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傍廂
前篇
神の使
佃島住吉の神主は、代々日向守といふ、弘好好祖今の好貞ともに三代つゞきて我門弟なり、かの島の海人は、冬より春かけて白魚お旨と漁れり、年によりてすくなき事あれば、島人一同に神主に祈禱おたのめり、其祭祀には生きたる鯉お二、白木台に居えて神前に備へ、神祭経りて海に放つに、しばしの程は労りたるさまなれど、海に入りていきほひはじめの如く、沖の方へはしり行けり、是は住吉神よりわたつみの神へのはゆま使にて、白魚奉らせ給へといひやるなりといひ伝へたり、