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鶉衣
前篇拾遺
白魚譜
牡丹は花の一輪にて賞せられ、梅桜は千枝万葩お束ねて愛せらる、それが勝れりとも劣れりとも、更に衆寡の論には及ばず、白魚といふものゝ世にもてはやさるゝはがの鯛鱸の大魚に比すれば、今いふ梅桜の類と等し、しかるに国俗のとなへ異にして、しろ魚ともしら魚ともいへり、是いづれならんといふに、さればしろ菊ともしろ鷺ともいはねば、しら魚といふこそよからめといへば、かたへの童のさし出て、いなとよ世にしら猫とも、しら鼠ともいふにこそとうちこまれて、援に物定の博士しばらく黙然たり、