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宇治拾遺物語

是もいまはむかし、ある僧人のもとへいきけり、酒などすゝめけるに、氷魚はじめていできたりければ、あるじめづらしく思てもてなしけり、あるじようのことありてうちへ入て、またいでたりけるに、この氷魚のことの外にすくなくなりたりければ、あるじいかにとお、もへども、いふべきやうもなかりければ、物がたりしいたりけるほどに、この僧のはなより、氷魚のひとつふといでたりければ、あるじあやしう覚て、そのはなよりひおの出たるは、いかなることにかといひければ、とりもあへず、此比の氷魚は目はなよりふう候なるぞといひたりければ、人みなはとわらひけり、