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大和本草
十三/河魚
鰷魚(あゆ) 春の初、海と河との間にて生れて、河水にさか上る、夏に漸長ず、八月以後さびて味よからず、秋の末河上より下りて潮ざかひにて子おうんで死す、沙川の鰷は小にして痩す、大石多き大河にあるは苔お食ふ、故大にして肥ゆ、、大なるは尺に至る、又香魚と名づく、香よき故也、雨航雑錄に雲、香魚、鱗細不腥、春初生、月長一寸、至冬月長盈則赴潮際生子、生已輒稿、一名記月魚、稿とはあゆのさぶるお雲、豊後国早見郡立、石村の浅見川の鰷は、冬に至るまで下らずさびず、其川に温泉いでヽ水温なる故なるべし、凡鰷の性温補す、香味共によし、背に脂あり、滞痰気、腸の醢お俗にうるかと雲、久き洩利お止む、初症には不可也、宿食及有痰人は不可食、鰷の子おまじえたるは味猶美也、又鰷肉お切て醢とす亦可也、鰷に雌雄あり、雌は首小に身広く皮薄く色黄なり、子は粟の如し、白子もあり、秋半二胞あり、雄は頭小に身狭く、色雌より淡黒なり雌より長し、粟子なし、白子二胞あり、雌は味よし、雄は味劣る、雄は秋半早く枯(さぶ)る、雌はおそくさぶる、鰷おせいごと雲説あやまり也、又鮎おあゆとよむも誤也、鮎は諸書お考るになまづなり、日本紀神功皇后紀に細鱗魚おあゆとよめり、