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重修本草綱目啓蒙
三十/無鱗魚
鮧魚 なまず 一名慈魚〈事物異名〉 未由棄〈郷薬本草〉
なまずは淡水に産す、その形大頭偃額、大口大腹、背は蒼黒色一種斑文あるものあり、ごまなまずと雲、倶に腹白く尾は岐なくして鱧魚の如し、鬚あり鱗なし、歯ありて肉食す、漁人蛙お以て是お釣る、体涎滑にして捕がたし、城州の宇治川、淀川、江州の琵琶湖、信州の諏訪湖等に多し、大和本草に、箱根山より東北には鮧魚お産せずと雲、魚譜に享保十四年九月朔日、武州豬頭の池水汎濫、而江武小石川辺塞満如大河、人家数百、人馬多死、爾来多有此魚と雲ふ、広東新語に、鮎魚出流水者色青白出止水者青黄、故以灘獺中者為美と雲ふ、鮧魚は四時常に捕ふ、冬春最も多し、其卵大さ蘿菔(だいこん)の子の如く、色青く昧佳ならず、此魚大なる者は五六尺に至る、江州竹生島、大浦、沖島、多景島辺には、七八尺丈余なる者、希にありと雲ふ、至て大なる者は味酸く佳ならずと、木内氏言へり、本朝食鑑には、竹生島泛水中間、其底空壙通四方、群鮎互大不可量と雲へり、その品色赤き者おあかなまず(○○○○○)と雲、色黒き者おくろなまず(○○○○○)と雲、色白き者おしろなまず(○○○○○)と雲、色黒く腹黄白頭大にして、全身大に短き者おいわとこ(○○○○)と雲、総て三寸以下なるおぎちや(○○○)と雲、皆江州山田の方言なり、唐山にてはなまずお鮎と雲、正字通に鮎魚言其粘滑也と雲ふ、本邦にては古より香魚(あゆ)の名とす、