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重修本草綱目啓蒙
三十/無鱗魚
鰻鱧魚 むなぎ〈万葉集〉 うなぎ(○○○)〈今名〉 おなぎ(○○○)〈誤名〉 はじかみいお(○○○○○○)〈和名抄〉 小者、めそ(○○)、〈江戸〉 みヽずうなぎ(○○○○○○)〈京〉 めヽずうなぎ(○○○○○○)〈同上〉 かよう(○○○)〈上総〉 くわんよつこ(○○○○○○)〈同上〉 がよこ(○○○)〈常州〉 すべら(○○○)〈信州〉 はりうなぎ(○○○○○)〈土州〉 一名鰻鯬〈通志略〉 鰻魚〈同上〉 江鰻鱧〈時珍食物本草〉〉 江鰻〈異魚図賛〉 河鰻〈海塩県図経〉 鱧〈正字通〉 蛇長魚〈郷薬本草〉 烏鰻〈雑字簿〉
うなぎは流水中に生ず、湖海池沼中にも亦有り、形長くして蛇の如く、背は蒼黒にして肉鬣ありて尾に連れり、腹白く隠然として斜文あり、鱗なく粘滑にして捕へがたし、鱧腸(たヽらび)、或は雀翹(うなぎづる)お掌中に置けば捕へ易し、故に鱧腸おうなぎつかみと雲、雀翹おうなぎづると呼ぶ、江戸にては浅草川深川辺の産お、江戸前と称して上品とし、他所より出るおたびうなぎと穏して下品とす、京にては若州及江州勢多の産お上とし、城州宇治川、淀川、江州琵琶湖の産お次とし、勢州桑名、濃州より来る者お下品とす、若州の産は首小にして身大なり、焼時は油最多くして自ら皮お脱し、味猶勝れり、勢多の産も同形なれども、焼ときは首大に身小さくなる、桑名より来るは、尾州蟹江の海中にて漁す、濃州より来るは池沼の産なり、江州にてはうかり(○○○)、一名くちぼそ(○○○○)と呼ぶものお上とす、首小ならず、大なる者長なに尺に過ぎず、一種かにくひ(○○○○)は、首、大にして口扁く内赤し、好で小蟹お食ふ、形最長大にして味劣れり、本経逢原に闊嘴者為鰻、尖嘴者為鱧の説あり、一種すぢうなぎ(○○○○○)は、背に黄条あり味美なり、因州に多し、是金糸鰻鱧なり、一種赤うなぎ(○○○○)は、播州夢先川の上にあり、色朱お塗るが如しと雲ふ、紀州古座浦宇留村の大うなぎは、囲三尺余、長さ一丈許あり王州布師田(ぬのした)村布師田川に、径五寸長さ六尺許なる者あり、日州及肥前には、囲一尺余、長さ六尺或は丈余なる者あり、色黒くして白点あり、方言ごまうなぎ(○○○○○)、一名さくらうなぎ(○○○○○○)、貝原翁の曰、本草に重四五斤者食之死と雲へども、日向の大うなぎは食して無毒と雲、京師にも常のうなぎの大さにして、白点ある者あり、ごまうなぎと呼ぶ、油多く味美なり、濃州にも多しと雲、薩州には黒点ある者あり、白点あるものあり、黒点あるものは形大なり、方言ごまうなぎと雲、羽州秋田も然り、阿州母川のうなぎは、園三尺余、長さ六尺許あり、是は江鰌の類なり、一種耳あるうなぎおみみうなぎ(○○○○○)と呼ぶ、豆州三島の神沼にあり、広東新語に、有曰白鱣、以産池塘中鳥耳者為佳と雲ふ、鰻鱧の鮓宇治川の名産なり、方言宇治丸、塩乾する者は野州喜連卅より出、一種豆州方言じやうなぎ(○○○○○)は、径三寸許、長さ二尺許、時時水お囲て草中に居と雲ふ、
増、今世医家妄に病者の鰻鱧魚お食ふことお禁ず、是大なる誤なり、余嘗て痘瘡お療するに、元気虚弱にして起脹し難き者には、必ずこれお食はしむ、乳児は其母に食はしむ、其効大に鹿茸穿山甲に勝る、且つ労療虚脱及小児五疳お治す、其他功効猶多し能く焼て食ふお良とす、魚店にて焼くものは半熟のもの多し、再焼かざれば却て下利お加ふ、