[p.1367]
老の長咄
おのれ好めるものとて、近しき友、鯲お一升ほどくれられたり、よきものえたりと思ふ折から、一静といへる友来たれり、幸なるかな、これお煮んといへば、先待れよ、こなたにては世話なり、我が宿にて煮させ申べしと、其まゝ持行ぬ、間もなく下人に鍋お提させ、酒一陶そへてぞ来たる、こはふしぎはやく煮べきものならずと思ひながら見てあれば、居酒やの煮おきのどじやう汁なり、是はいかにといへば、さればよけふは我心ざす事あれば、かくははからひしなりといひつゝ喰ひ、酒も皆呑つくし、先の鯲お又取よせ、いざ〳〵御堀へはなしなんと、川辺にいたりてうちあくれば、おほくの鯲れい〳〵とさる、