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甲子夜話

或人より聞く、駿海産の甘鯛お生干にしたるおおきつ鯛(○○○○)と称して名品の一なり、今は興津鯛と書て、興津の産なりと覚ゆる人もあるは誤なり、是は駿城に烈祖の在らせられしとき、奥女中のおきつと雲しもの、宿下りして戻りたるとき、生干甘鯛お献じたり、殊に御口に協ひ、戯におきつ鯛と御諚ありしより名高くなり、其地にて専らおきつ鯛と呼に至れることなりとぞ、かヽることさへ転訛多きものなりけり、