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年々随筆

魚は何よりも鯛よろし、神代紀に、赤女比有口疾雲々、注に赤女鯛魚名也、〈○中略〉日本紀のおもても、まづはたひの、事とみえたれば、御饌にたてまつらぬにやあらん、かうたぐひなくうまきものゝくちおしき契なりけり、しかれども御元服の理髪の大臣、干鯛お奉る事あり、今もつねに奉るときく、かた〴〵いぶかしき事也、こゝに正明おもふ事あり、尾張国知多郡の浦々、篠島ひまり島などにてとる魚にぢんめ、ぢんなめ、あいなめ、あかめ(○○○)、くぢめ(○○○)などめといふ魚なほ多かり、これらみな藻魚の種類にて、たひよりは味淡く毒なき小魚ども也、〈○中略〉そのあかめは赤もど、こともいふ、紅色にて三四五寸ばかりあり、江戸にても常みる物也、くぢめは淡黒色なり、くうもどこともいふ、赤女と口女とは、鯛と黒だひとのごとし、さて又一種今やがて赤鯛ともいひ、又めだひともいふ物有、〈○中略〉これすなはち赤女の大品にて、味淡く藻魚の属なり、鯛の種類にはあらず、その口の大きにひろごれるは、かい探られし故にもやあらん、はかなき方言お拠にすなれど、やがてあかだひといふ事もあると、めだひと鯛女とかよひてきこゆると、赤女がその小品なると、口女がその種類なると、かた〴〵よしありげなり、さて又書にみえたる名字どもおとかば、赤女とあるは、女は藻魚島物といへる数品お摂ねたる種類の名、その中に一種ことに色あかき故の名にて、すなはちめだひおさしていへる也、〈しばらく大小品お混じて、赤女といへるとみるべし、〉口女は同種類ゆえまぎれたるつたへ、鯛女は鯛に似たる女といふ事とみて、すべてよくかなひたり、〈○下略〉