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鶉衣
前篇拾遺
百魚譜
人は武士、柱は檜の木、魚は鯛とよみ置ける世の人の口における、おのがさま〴〵なる物ずきはあれども、此魚おもて調味の最上とせむに咎あるべからず、糸かけて台に居たる男ぶりさへ、外に似るべくもなし、しかるおもろこしにはいかにしてか、ことに賞玩の沙汰も聞へず、是に乗ける仙人もなし、されば夷三郎殿も、他の葉武者には目もかけず、たゞ是にこそ釣もたれ給へ、竜お鱗の司といふは、食味はなれたる理屈にして、さは是お料理せんと、学びたる人は、むがし愚なる名おもこそとゞめたる、