平家物語
一
鱸の事
清もりいまだあきのかみたりしとき、いせの国あのゝ津より、舟にてくまのへまいられけるに、大きなるすゞきのふねへおどり入たりければ、せんだち申けるは、むかししうの武王のふねにこそ、白魚はおどり入たるなれ、いかさまにもこれ孔はごんげんの御利しやうとおぼえ候、まいるべしと申ければ、さしも十かいおたもつて、しやうじんけつさいのみちなれども、みづからてうびして、我身くひ、家の子らうどうどもにもくはせらる、
清もりいまだあきのかみたりしとき、いせの国あのゝ津より、舟にてくまのへまいられけるに、大きなるすゞきのふねへおどり入たりければ、せんだち申けるは、むかししうの武王のふねにこそ、白魚はおどり入たるなれ、いかさまにもこれ孔はごんげんの御利しやうとおぼえ候、まいるべしと申ければ、さしも十かいおたもつて、しやうじんけつさいのみちなれども、みづからてうびして、我身くひ、家の子らうどうどもにもくはせらる、