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倭訓栞
前編十/佐
さば 倭名抄に鯖およめり、小歯の義、他魚に異れりといへり、されど抄にはあおさばと見ゆ、鯖の字西土にいふ物は異れり、唯崔氏食経の説相似たり南産志にいふ青貫も亦近し、貝原氏の説に夏秋漁人夜此おつる、漁火千万海上に連り、観者目お驚かす、伊勢物語の歌に、 はるゝ夜の星か沢辺の蛍かも家すむ里の海人のたく火か
とよめるが如しと見えたり、げに此歌およくもあらぬ体のやうに評せし説も侍れど、星夜一天のけしき、人皆常になるゝ所にして、宇治瀬田おはじめ、山川の蛍能登出雲などの鯖の漁火より沼海の国にあまのたく火の数かぎりなきありさまは、親しく見る人ならではかく比類し、よく形容したる意味は弁へがたくこそ、