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慈元抄

問曰、歌故に幸に逢たる人ありや、答曰、昔有馬の王子零ぶれ給て、下野国まで下り給、其国五万長者とて富人あり、其に立寄せ玉ひて、奉公すべき由お宣ふ、長者奉置、〈○中略〉其比長者独の娘お持たり、かねては常陸の国司に参すべきよし、約束有ければ、彼王子忍逢給ひて、無程懐姙有ければ、国司より催促ありけれど、娘は早死したりしとて、喪葬の儀式おなして野辺に送る、棺にはつなし(○○○)と雲魚お入て、焼て烟お立、彼魚の焼匂ひ、人お焼に似たればなり、其心お読る、
東路の室のやしまに立煙たが子のしろにつなし焼らん、このかはりに焼とよめり、それよりしてこのしろと雲となむ、