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蝦夷行記
商売は皆旅人にして、百姓と称する者は皆国人なり、百姓の業田作はせず、唯鯡おとりて、十五の一お以て運上とし、余分お以て衣食とす、是松前中の収納物也、此鯡猟誠に天下一の大猟成べし、さればこそ此干鯡おこやしに用ゆる国々は、南部津軽出羽北国近江へかけて是お用ひ、かずの子は天下一同に用ひて、すくなしとせず、此魚年来敢而不猟と雲事なく、其とる時分にはおのづからより来りて、時節おたがへず、春分十日過より来る、凡二十日程の内に、三度寄来りて、猟お得れば翌年迄の渡世ゆたかに済なり、猟時分は武家おはじめ、松前中の者老幼男女上下一同、此業にかゝる事、誠に田作の秋と異なる事なし、春分より初り凡二十日ほどに取仕廻て、鯡数の子それ〴〵に干あげ俵物とし、小船に積で江刺へ廻す、此時江指へは北国船いりこみ、鯡数の子の相場お立て買取、其国々へ積廻す、松前近辺の鯡は、松前城下へ積登せ、城下にて売払なり、