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当世武野俗談
勝間竜水
新和泉町に家主役おして手習指南して、筆名は勝間竜水とて、御府丙に名高き者あり、〈○中略〉或時母女房寺詣りに行留守なり、折節四月の頃にて初鰹売来、鰹お呼調へ喰んと直段おす、一貫文に調へしに銭一文もなし、日頃母親信心者にて、持仏堂清にかざり、三具足光りかゞやきける、彼道具お不残持出し、難波町の仕廻ものやへ売て鰹お調へ、其近所の俳諧の宗匠平砂湖十買明などお招き、大に舞うたひして楽けり、母親帰て大に驚きなげくといへども、曾て何とも思はずして笑ひ争はず居たり、希有の男なり、