[p.1444][p.1445]
蜘蛛の糸巻
追加
初鰹天明の頃、我家の長臣渡辺松右衛門石町の豪富林治左衛門が許に至り、〈今も此大家おとろへ、賤しきくらしとなり、〉初鰹の振舞に逢ひし時、林が手代に価お尋ねければ、今日は安し、壱本弐両弐分なりと雲ひしとて、立ち帰りて我〈○岩瀬京山〉が父へ語りたるお、我等傍にありて聞きし事ありき、我父鰹お好まれしゆえ、出入の魚屋常に持ち参りしが、初鰹は高価なりしが、秋の古脊に至りては、肥大なるも価二百孔に過ぎず、今は初鰹も弐両三両おなさず、古脊も弐百孔の物なし、いかなる故やらん、