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今昔物語
三十一
近江国鯉与鰐戦語第卅六
今昔、近江の国志賀の郡古市の郷の東南に心見の瀬有り、郷の南の辺に勢多河有り、其の河の瀬也、其の瀬に大海の鰐上て江の鯉と戦けり、而る間鰐戦負ぬれば返り下て、山背の国に石と成て居ぬ、鯉は戦ひ勝ぬれば江に返り上て、竹生島お摎り居ぬ、此の故に心見の瀬と雲ふ也けり、彼の鰐の石に成たりと雲ふは、今山城の国郡のに有る此れ也、彼の鯉は于今竹生島お摎て有とぞ語り伝へたる、心見の瀬と雲は、勢多河のの瀬也となむ語り慱へたるとや、