[p.1506][p.1507]
重修本草綱目啓蒙
三十/無鱗魚
鱧魚〈止字通二音里〉 黒鯉魚〈通名〉 一名鰹〈埤雅典籍便覧〉 烏鯉魚〈事類全書、八閩通志、〉 黒火頭〈同上〉 河精〈事物紺珠〉 烏蠡魚〈医学正伝、東医宝鑑、〉 黒火柴頭魚〈附方〉 烏魚〈同上〉 花魚〈広東新語〉 七星魚〈本草備要、広東新語、〉 黒魚〈潜確類書、本経逢原、〉 黒鯉魚〈昊氏食物本草通雅〉 䱰魚〈同上〉 水厭〈発明〉 人厭〈典籍便覧〉 斑魚〈南寧府志〉 魰〈正字通〉 伭鯉 〓〈共同上〉 加母致〈郷薬本草〉
和産詳ならず、希に舶来あり、清商は九里魚と雲、古渡風乾の者は長さ一尺許、形烏魚(ぼら)に似り、頭は狗母魚の頭に似て長く、三停(みつわり)の一也、口大にして細歯多く列れり、目上に七つの小孔あり、外に小孔数多し、身は狗母魚より短し、鱗は狗母魚の如く脈条多し、背に黒斑あり、尾は円にして岐あらず、安永庚子の年に、塩蔵の者渡る、大なる者は長さ二尺、小なる者は長さ五寸許、文化元年活鱧魚大小十余頭渡る、大なる、者は長さ一尺余、小なる者は数寸、其形頭尾同き大さにして腹大ならず、体粘滑にして黄顙魚の如しと雲、嘗て聞く江州朽木のいもうお形鱧魚に似て斑なし、土人食用す、即山(やまのいも)薬根の化する所也と、又南海のやまいもうお長さ五六寸灰白色鱗あり、頭円にして尾は鉄魚の如く、肉柔にして味佳ならず、狗母魚に類すと雲ふ、此二魚鱧魚に似くりと雲伝れども、予未だ親く目擊せず、鱧魚おはもと訓ずるは非なり、はもは海鰻鱧なり、又やつめうなぎと訓ずるも、非なり、やつめうなぎは漢名詳ならず、〈○中略〉
海鰻缶 はむ〈古名播州〉 はも〈海鰻の唐音なりと大和本草に雲り〉 がわさより(○○○○○)〈雲州〉 一名海鰻〈呉氏食物本草〉 猧狗魚〈事物異名〉 海蛇〈同上〉 慈鰻〈八閩通志〉 竜鰻〈郷談正音〉
はもは摂、州大坂、住吉、泉州堺、岸和田、紀州、播州、丹後、但州等より多く出す、江戸には無し、希に小なるものあり、形は鰻鱧に似て大なり、觜尖長くして歯多し已に捕たる者も能人おかむ、大なる者は長さ三四尺、その小にして肉薄き者おごんぎりばも(○○○○○○)と呼ぶ、開き乾す者おひばも(○○○)と雲ふ、京大坂にては生肉お取り擂砕し、焼或蒸して魚肉糕とす、大坂には数種ありて、肉糕に宜しきはも一品あり、偽造の肉糕は狗母魚、海鯊魚、火魚等の肉お用ゆ、京にては諸魚の売れ難き者お集めて偽造す、その膘乾し裂きて弓弦に造るべし、甚つよしと雲ふ、又造膠勝於諸膠、弓人貴重之と、食療正要に言へり、
増、海鰻鱧の腸中に大肉片おなすものあり、俗にはものきもと呼ぶ、赤味噌の汁にて煮食へば、能く雀目お治す、軽き者は一七日、重き者は半月に過ぎずして平復す神方と謂ふべし、