[p.1513][p.1514][p.1515]
重修本草綱目啓蒙
三十/無鱗魚
河豚 ふくべ〈和名抄〉 ふく〈加州〉 ふぐ〈京江戸〉 ぶく(○○)〈雲州、佐渡、予州、筑前、〉 ふくと〈摂州〉 てつぽう〈江戸讃州〉一名黄駒〈雨航雑錄〉 〓魚 鯸 鴟夷〈共同上〉 黄薦可〈小族加恩簿〉 春栄小供奉〈同上〉 夷魚〈海塩県図経〉 鶘夷〈閩書〉 烏狼〈通雅〉 探魚〈同上〉 河魨〈正字通八閩通志〉 豚魚 鯸䱌 鯸台 鯸台 台〈音台〉 䱮 〓〈䱮同〉 䱦魚 鯸䱦 維鯺〈共同上、大者、〉 魨魚〈訓〓字会〉魺魨〈同上〉 伏隻〈郷薬本草〉
海産なり、寒中より釣る、菜花開く時は釣れずと雲ふ〈○中略〉此魚腸胃倶に毒あり、就中腸胃の後梁骨(せぼね)に傍て蝴蝶の形なる者あり、誤て食へば立に死す、〈○中略〉俗にふぐの蝶と雲、一名さばりじらみ、雲州大さ七八分、形円にして薄く魚鱗の如し前に二の小凹あり、後に一の小凹あり、表は色白く透徹す、裏も色白し、上に両眉の形あり、眉下に円眼左右相並ぶ、其下の中央竪に長く微く起て鼻の如し、其左右各四足ありて皆動揺す、眼下に足の如き者、左右に各一つあわて動かず、又ふぐの子は大毒あり、まふぐは好事者冬賞す、乾かす者おひふぐと雲、色白き者お以て上とす、味佳にして毒なし、加州にてひうちふぐと雲、又しうちふぐとも雲、皮お剥ぎて乾したるおふぐひと雲、加州より多く出す、此魚品類多し、一種さばふぐ(○○○○)は長さ尺許、常のふぐより小にして短く毒少し、褐色にして紋あり、五月味佳なり、一種とらふぐ(○○○○)は背青して虎斑あり腹白し、左右の鰭白く、背腹の鰭及び尾黒色なり、好事者春夏共に食ふ、一種品川ふぐ(○○○○)は、武州芝及び品川にて捕ふ、大さ尺に過ぐ、然ども味美ならず、故に、食はず、一種あかめふぐ(○○○○○)は一名どくふぐ、筑前三原ふぐ摂州きたまくて、同上此魚お擲つ時は必北に向ふ、故に此名あり、目赤く背に青黒紋ありて雲の如し、腹色白の四鰭尾倶に黄なお、二三寸より一尺二三寸に至る、秋多し、毒最甚し、一種勢州にて北まくら(○○○○)と呼ぶ者は、大さ四五寸、全身黄色にして黒斑あり、肌は薑擦子(わさびおろし)の如くにして透徹す、已に死する者お器に入れ置時は、悉く水に化し、骨も残らず、大毒ありと雲ふ、一種もうふぐ(○○○○)は、形円にして尾本細し、目赤く頭黒し、背は黄質黒章腹白し、左右の鰭赤く、尾上の鰭黄黒色、下の鰭白し、大さ二三寸に過ぎず、八九月に出、一種なごやふぐ(○○○○○)は一二寸より八九寸に至る、秋冬これあお、目白く背浅青黒にして紅お番て黒斑あり、左右の鰭黄色、上の鰭赤く下の鰭下尾は背色に同じ、予州にてなごやふぐと呼ぶものはもうふぐなり、一種たかとうぶく(○○○○○○)〈筑前〉は、志州にてよりとふぐと雲ふ、形小く背灰色腹黄色毒なし、広東新語に、自虎頭門至茭塘六七十里許、其河魨小色黄而味甘少毒、与産他県大而板牙色白者異と雲ふ、一種しやうないふぐ(○○○○○○○)〈江戸〉は、一名すヾめふぐ、まめふぐ、〈予州〉しほさい、〈同上〉いそふぐ、〈佐州、豊後、〉こめふぐ、〈加州〉ちんぶくとう、〈肥前〉おはりふぐ、〈讃州〉かつんと、小ふぐ、あぶらふぐ〈食療正要〉ちぶく、〈豊前〉是時珍食物本草の〓魚なり、一名〓魚、〈正字通俗字〉形小にして毒なし、海辺の人釣獲て斜に腹お切り去て食ふ、此魚能脹すること、尋常の河豚より甚し、若し脹ざれば口より気お入敲く時は脹す、食物本草に嗔則腹脹大円緊如泡、仰浮水面と雲ふ、一種佐州のはりふぐ(○○○○)も亦〓魚の属なり、一名四十ぶく、〈雲州〉形正円大さ三寸許、全身鋭刺直生す、長さ四五分、その鰭尾至て小し、雲州にては十二月八日必風ありて海荒る、此魚多く打上らる、肥州唐津にては四月八日自ら陸に上りて死すと雲ふ、一種すヾめふぐ(○○○○○)は一名すヾめうお、いしふぐ、すヾめうし、すヾみお、是本草原始の海牛なり、十二月の八日には、海上に吹上らると雲ふ、長さ二寸許、径一寸余、その大なる者は長さ三寸許、皆体四稜にして硬し、鱗なくして六稜文あり、頭尾上に長角各二つあるものは雄なり、角なき者は雌なり、又腹大に平にして背瘠て尖る者、或は微しく異形なる者数品あは、一種子こふぐ(○○○○)は摂州に産す、形常のふぐに似て扁く至て小なり、白色にして横黒紋あり、芸州にて子ふどと呼ぶ、一種かはごふぐ(○○○○○)は、一名はこふぐ、海すヾめ、阿州さめふぐとう、土州長さ七八寸、背平にして左右に稜ありて、全身四角なり、褐色にして花紋海牛の如にして色白し、腹は淡白色にして花紋あり、その口甚小く鰭尾共に小なり、左右の鰭の傍に小孔各一つあり、此品勢州二見にて乾殻お売る、此外猶数品あり、
増、薩州曾士考雲、河豚の毒お解するには、螟脯乾(するめ)お生にて食ひ、或は煎服して極て妙なり、其効金汁丹薬に勝れり、〈○中略〉
魚虎(○○) はりせんぼん はりせんぼう〈佐州〉 みのかけぶく〈筑前〉 八日ぶく〈石州〉 一名鬼頭 魚〈正字通〉 〓〈同上俗字〉
形状はりふぐに似て瘠長くして扁し、背は色黒く腹は色白し、その刺皆下に向て生ず、はりふぐの刺の直生するに異なり、魚の長さ三寸許、或は五寸許、一種長さ一尺余、褐色にして首円に猫に似たり、刺ふとくして少し、是れ真の魚虎なり、