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兎園小説
十二集
犬猫の幸不幸
いぬる十一月廿三日、内藤新宿なる旅籠屋橋本総八が家にて、河豚お料理ける時、その骨腸お家のうちなる子犬と、家に飼うたる猫と食ひけるに、忽口より白き淡おふき、くる〳〵とめぐり、七転八倒して、いとくるしげに見えし程に、犬はそのまゝ死しぬ、猫は座敷へよろめき上りつゝ、折ふし座敷の腰張おせんとて、つのまたといふものお煮て、盆に入れて置きたるお、此猫そのつのまたお啖ひけるに、見るが内にくるしみの気色うせて、平日のごとくになりけり、これつのまたは魚毒お解すものなるか、それおしりて猫の食ひけるか、又はくるしさのまゝに、何となくくらひしか、自然とつのまたの功によりて魚毒お解したるにや、