[p.1524]
魚鑑

あんこう 俗に鮟鱇の字お用ゆ、漢名華臍魚、一名琵琶魚、一名蝦蟇魚、中華には、形琵琶と見、蛮夷には蝦蟇と見て名く、或書に出たり、夏月の堅魚に対て、冬月の上饌なり、貴賤となく、好事家の欲(ほ)りする所、寒中その価猶貴し、その吻上に両長鬚あり、名づけて釣竿といふ、常には額に冠り、時ありて鯅のぶれば、綸お垂に似たり、其末蠕々して、虫の游が如しとなん、其性游流連緩にして、他魚のごとく迅疾ならず、因て食お求ること易からず、飢ればかの釣竿おのべ静止(いごか)ず、小魚その蠕々たるお見て、香餌ならんと争ひ群れ来るとき、口おくわつとひらき、一吸にしてその釣竿おもとの如く納、緩々然たるお、かの孜々汲々終日にして、才に飢お凌ものに似ずといへり、扠この振舞には、右の釣竿お必ず上客に薦る習せなり、東海多しといへども、就中相豆常州多し、皮肉鬣腮骨腸胆みな食ふべし、