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甲子夜話
三十五
東海のうきヽと雲る魚は、未だ形お見ることも無りしが、辛亥の東勤中、長崎の宿老徳見茂四郎も東来して、予〈○松浦清〉が邸お訪ひ、水戸侯へ参りてこれお食したると語り、又その臣に請て、真図お得たりとて示す、予即其図お写す、〈小記お附す〉うきヽ本性の文字なし、故に献上にも仮名にて認上る也、魚の大さ二間四方、或は三四間余も有り、夏取る魚なり、常陸の沖に夏気に至りうかむ、俗に浮亀鮫と雲、〈余錄〉これお林氏に語れば夏ばかりこの魚の採らるヽこと、今まで知らざりしが、それにて解したり、年々七月十二月水戸侯より贈物あるが、其添品七月はうきヽ、十二月は鮏糟漬なり、是にて冬はうきヽ無きこと思はるヽとの談なり、〈水戸にては、さけには鮏の字お用ること也、〉