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享雑の記
前集上
多湊ぶり
佐渡に三十種の異魚ありといふ、〈○中略〉禿骨畢列(○○○○)〈とこひれ魚(○○○○○)○図略〉 解〈○滝沢〉按ずるに、方言とこひれとは長鬣魚の義にや、ぬ鋭鰭の義にや、こときと通ず、この物鮫の種類ならん歟、目は黄なり、頭より背に至て、すべて薄青色也、鰭の端は褐色にて、その余は水色に薄黒お帯て、斑に点あり、腮の端少許紅、或記雲、此魚全体文鰩魚に似たり、六の稜あり、稜に小なる刺あり、刺毎に細脈、亀甲の紋の如し、その質堅硬乾枯たるものは、年お経れども壊れず、経ること、久しければ、褐色に変ず、漁人肉お食ふことおしらず、隻乾脂として玩物に供るのみ、長大なるものは長尺余なり、上下の長鬣、これおひらけば両傘の如し、他魚とおなじからずといふ、
竜宮の鶏(○○○○)〈○図略〉 或のいへらく、竜宮鶏とは佐渡の方言也、これ鬼頭魚の奇品なるものなり、頭に冠ありて鶏に似たり、横肚に小なる方点高起て、刻鏤る如し、乾枯したるものは、堅硬して海馬に似たり、今按ずるに全体その色薄紅にして火魚の如し、実におこしの種類なるべし、
鉦敲魚(○○○)〈○図略〉 この魚は佐渡のみにあらず、相豆の海中に多かり、或いへらく、魚の形大小一ならず、大なるものは尺許に至るもあり、鱗なし、その色薄黒に青と黄お帯て光沢あり、横肚は水色の中に薄紅お帯たり、鰺の如し、両面に黒円紋あり、この魚脂ありて味美なり、相豆の海中冬春の交、多くこれお獲る、江戸これお的魚(○○)といふ、又賀陀比(○○○)と呼ぶとぞ、
今按ずるに、これ江戸にていふ加々美多比(○○○○○)の奇品なるべし、