[p.1540][p.1541][p.1542]
重修本草綱目啓蒙
三十/無鱗魚
鰕 えび 一名何〈鄭樵爾雅註〉 長鬚公〈事物異名〉 虚頭公 曲身小子〈共同上〉 魵〈正字通〉 長髯公〈類書纂要〉
鰕はかはえびの総名なり、〈○中略〉淡鹹の二産あり、つえつきえび(○○○○○○)〈京若州〉は、一名てながえび(○○○○○)〈本朝食鑑〉はたさえび(○○○○○)、〈豊後〉かれき(○○○)、〈勢州山田〉たちかせえび(○○○○○○)、〈同上津〉城州淀川の名産なり、江戸にもあり、長三寸許、首大なり、前両足身より長し、黒白二種あり、黒き者は子あり、八閩通志に草蝦頭大身促、前両足大而長、生池沢中と雲是なり、一種江州堅田より出る者は、長さ一寸許、一手甚長大にして一手は小なり、堅田えび(○○○○)と呼、一名かはえび(○○○○)、〈江州〉てんごうえび(○○○○○○)、〈備前〉てんぼえび(○○○○○)、てんぼうえび(○○○○○○)、かたえび(○○○○)、〈加州〉是召武府志の大脚蝦なり、一種蕁常の川えびの形にして、色白き者おしらさえび(○○○○○)〈備州〉と雲、一名しらさい(○○○○)、〈予州〉是白蝦なり、八閩通志に、白蝦生江浦中卜雲ふ、常の川えびは淡青黒色なり、予州にててんす(○○○)と雲、是青蝦なり、琵琶湖の大えびは大さに寸に過ぎず、皮鬚硬く下品なり、春夏秋とると雲ふ、又田中及び池沢に生ずる者はたえび(○○○)と雲、是泥蝦なり、土州にて長さ三寸許、流水泥中に生ずるおつちほり(○○○○)と雲、これも亦泥鰕なり、召武府志に、蝦小者俗呼泥蝦、生田塘池沼中炒熟之、色白者殻軟、色紅者殻硬又可食と雲ふ、梅鰕はつゆえび(○○○○)、八閩通志に、梅蝦、梅雨時出洲渚間と雲ふ、四五月田畔流水に小蝦最多し、是梅蝦なり、又秋水蘆蒲中にも亦群おなす、是蘆蝦〈八閩通志〉なり、凡蝦煮熟曝、乾則殻尾鬚足脱去す、これおはだかえびと雲是蝦米なり、広東の蝦米清商将来するものあり、長七八分、時珍食物本草に江陰有銀鉤鰕、色白如銀、又有鷹爪鰕、大如鷹爪皆味之鮮美、人所珍貴者也と雲、珠璣薮に鷹爪大蝦米と雲ふ、〈○中略〉米鰕糠鰕は蝦の最も小なるものお雲、琵琶湖のぬかえび(○○○○)は秋とる、至て細小二三分に過ぎず、味美なり、大えびの子に非、別に一種なり、〈○中略〉 海鰕 うみえび
海中に産する蝦の総名なり、品類多し、いせえび(○○○○)は閩書の蝦魁なり、一名蝦抷、竜蝦〈共同上〉季遐〈水族加恩簿〉、此蝦は志州の鳥羽にて漁し、勢州より京師に来る、故に伊勢えびと雲ふ、阿州にても此名お呼ぶ、勢州尾州にては志摩えびと雲ふ、江戸は鎌倉より来る、故に鎌倉えびと雲ふ、佐州にても此名お呼ぶ、肥州長崎にてえびが子〈同名あり〉と雲ふ、海蝦中の大なる者にして上品なり、その形状は両眼紫黒色にして、前、に黄なる処ありて、高く出て疣の如し、口に四の鬚あり、其二は長さ一二尺に過ぐ、其二は長針の如く、根は針柄に似て硬刺あり、殻は肌麤にして尖り、手足に節あり、蘆笋の如し、背に硬甲相連り、尾端は花弁の如くにして、倶に紫色なり、煮時は全身深紅色となる、古より慶事には必用ゆ、故正用に已煮たる者お以て門戸に掛け、春盤に上す、此物海水お離れて久く死せざること数日、故に遠く京師に致す者、猶能身お動し、鬚脚お揺かす、又偶数尺の老蝦あり、又勢州には足ごとに鉗(はさみ)あるものあり、五色鰕は竜蝦の五色にして、両の大鬚白き者なり、けんえびは竜蝦の一種、両鬚扁大にして長し、相並で剣の如し、一名つのながえび、勢州一種くるまえび(○○○○○)は閩書の斑節蝦なり、尋常の蝦の形にして大さ六七寸に過ぎず、殻厚くして白く節ごとに紅斑あり、煮る時は全身深紅色曲りて車輪の如し、武州、相州、豆州、房州、総州皆多し、曝乾する者、十尾ごとに縄連する、もの薩州より出す、〈○中略〉一種芝えび(○○○)は武州の芝にて多くとる、大さ三四寸に過ぎず、殻薄く白し、手足鬚倶に短細、煮ときは淡赤色、是亦鷹爪蝦の属なり、その至小なるもの、諸州に産す、味亦佳なり、曝乾して摎に送る、その名多地名お以て呼ぶ、一種毘沙門えび(○○○○○)は一名海老、〈勢州〉えびのおば〈熊野〉えびが子〈薩州〉長さ七八寸倒にして腹の方より見れば、毘沙門天の形状あり、薩州には甚大なる者あり、肉お食ふ上品なり、一種うちはえび(○○○○○)は一名たびえび、〈土州〉手ながえび、かしのえび、あしながえび、〈共同上〉形海老〈勢州〉に似て扁し、其首殊に扁大にして長団扇の如し、径二寸余、長三寸許、尾は下に曲りて海老に同じ、一種あなご(○○○)〈尾州〉は一名いしはじき、〈肥後〉たいこうち、〈摂州〉しやくえび、〈讃州〉長さ一寸余、一手は小く、一手は長大にして、堅田えびの形の如し、是も亦召武府志の大脚蝦なり、