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重修本草綱目啓蒙
三十/無鱗魚
章魚 たこ せきだこ(○○○○)〈筑前大者〉 一名河北小吏〈典籍便覧〉 章鋸 章拒〈共同上〉 章巨〈寧波府志〉 紅挙〈閩書〉 滄浪頭〈水族加恩簿〉 望潮魚〈広奥記〉 八梢魚〈束医宝鑑〉 文魚〈同上〉 章花魚〈正字通〉 海和尚〈山東通志同名あり〉
京師に来り市もの、皆播州二見浦にて漁し、摂州兵庫より送る、兵庫にては漁せず採る法は長縄に長瓦壼〈たこそぼと呼〉中に紅帛片(もみのきれ)及紅熟番椒(とうがらし)少許入れたるもの、数箇お連綴し、海底に沈め置く時は、必章魚壼中に入て出でず、陸に引挙ても敢て出でず、指爪お以壼底お掻く時は、便皆走り出、その壼久く用る者は、外に蠣殻及小介粘著して異形おなす、好事者用て花尊(はないけ)とす、薩州にて用る者は磁壼にして底に大孔あり、章魚は身小にして八足長大なり、足に疣あり、二道に相並て釘の如し、釘ごとに竅あり、色は白くして微紅お帯ぶ、又全く赤皮なる者あり、双眼及口皆足上にあり、腿交中間白皮中に鳶烏の形なる骨お包みて臍の如し、形色烏賊魚の鳶烏と同して大なり、腹は袋の如し、肉薄味亦佳ならず、俗にどうびんと雲ふ、章魚大なるものは、八九尺或は一二丈にして、雞犬お捉食ひ、人牛お捕るものあり、或は海中よは足おのべて、船中人の有無おさぐることあり、小なるものも、夜中陸に上り、腹お上にし足お下にして、健走すること飛がごとくして、菜甫に入、茄おつみ、芋おほり食ふ、昼にても人なきときは出と雲ふ、若州加州等北地には尋常の小なるものなし、皆大足のみお売る、径三四寸なるものありと雲ふ、乾だこ(○○○)全く暴乾するものあり多くは石距なり、長さ七八尺なる者あり、又刮り薄片となすものあり、色潔白なり、讃州より出す、子お藤のは(○○○)な(○)と雲、播州の二見名産なり、二三寸の長さの糸の如き者に、粟粒に似たる者多く簇り連りて、儲の花穂に似たり、黄白色なり、塩蔵して遠に送る"湯(すひもの)となして珍とす、此お海藤花と雲ふ、一種小だこは、十月比多く京師に来る、故に十夜だこ(○○○○)と雲ふ、東医宝鑑の小八梢魚俗名絡蹄なり、一種いヽだこ(○○○○)は、江戸になし、摂州、泉州、紀州、播州の海浜にて多く取る、絡蹄より小く、足共に長さ五七寸、或二三寸、腹内に白米飯の如くなるもの充満す、柑瓤の形の如し、俗に飯と呼ぶ、章州府志にも俗為飯と雲ふ、全く煮食味美なり、十二月よわ出、春中盛なり、三月二至れば味頓に減ず、或は糟蔵し、或䱒(しほづけ)して遠に送る者は、味鮮なる老に劣れり、源順はこれお貝鮹と雲ふ、是閩書の鱆魚、一名望潮魚なり、備前の片上には、絡蹄の大さなる者あり、その地の名産にして他所になし、紅螺(あかにし)殻にてとると雲ふ、その飯大なる故に切りて食ふ、一種くもだこ(○○○○)は形状いヽだこと同くして、腹小く空くして飯なし、足細長にして蛛の如し、小なる者は寸許、丹後、但州、越前、加州多くとる、華夷虫魚考、寧波府志、典籍便覧の望潮一名塗嬉なり、勢州津にてあなだこ(○○○○)と雲は、形小くしていヽだこの如くなれども飯なし、いヽだこより後れて出毒あり、食へば必酔ふ、是又一種なり、くもだこといヽだことは雌雄の如くなれど、も、国によりて有無あれば別種なるべし、一種あしながだこ(○○○○○○)は、一名てながだこ(○○○○○)、まんぶく(○○○○)、〈防州〉くちなはだこ(○○○○○○)〈雲州〉形章魚に同じくして足最長し、食へば必酔ひ、又斑お発す、是石距なり、一名石拒、〈寧波府志〉八帯魚、〈東医宝鑑、章州府志、〉八則魚〈山柬通志〉雲州及讃州にては、石距は蛇の化ところと雲ふ蛇化のこと若州に多し、筑前にてはいヽだこの九足なる者は蛇化と雲、八足の正中に一足あるお雲ふ、石距の子おしめだこ(○○○○)摂州と雲、