[p.1571]
古今著聞集
二十/魚虫禽獣
伊勢国別保といふ所へ、前刑部少輔忠盛朝臣くだりたりけるに、浦人日ごとに網お引けるに、ある日大成魚のかしらは人のやうにて有ながら、ははこまかにて、うおにたがはず、口さし出て猿ににたりけり、身はよのつねの魚にて有けるお、三喉ひきいだしたりけるお、二人してになひたりけるが、尾なおつちにおほくひかれてけり、人めちかくよりければ、たかくおめくこえ人のごとし、又なみだおながすも人にかはらず、おどろきあざみて、二喉おば忠盛朝臣のもとへもてゆき、一喉おば浦人にかへしてければ、浦人みな切くらひてけり、され共あへてことなし、そのあぢはひことによかりけるとそ、人魚といふなるは、これていの物なるにや、