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貞丈雑記
十五/物数
一鮭にかぎりて一尺二尺と雲にあらず、大草殿相伝聞書に、鱈一しやくとあり、一尺二尺と雲いはれつまびらかならず、一尺以上の魚の大なるおば、一尺二尺といふ歟、
一又雲、鮭お一尺二尺といふは、一隻(しやく)の音おかりて雲なるべしと雲説あり、隻の字は、かた〳〵とよむ字にて、一隻といふは一つの事也、鮭にかぎりて、一隻といふわけもなし、何にても一つの事おば、一隻といふべき事なれば、此説も用がたし、按ずるに、前にも記す如く、大草流の書には、鱈おも一尺といへり、鮭も鱈も奥州より出る魚也、かの国の詞にて、すべて魚お一尺二尺といひ習はして、鮭鱈お他国へ送にも、一尺二尺といひてつかはしたる故、他国にても其詞おうけて、一尺二尺といひ習したるなるべし、本は昔奥州の国詞より出し事なるべし、
○按ずるに、鮭条引く所の宇治拾遺物語に既に鮭一二尺の文あり、