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塵袋

一信なき亀は甲わると雲ふ如何、過去世に釈迦如来と提婆達多と一所にむまれあひ給ひき、釈迦雁にむまれ給ふ、達多は亀となれり、旧好年しひさしかりき、或る時ひでりして、此のかめのすむ池の水づみなかはきつきぬ、亀是おなげくに、雁の雲ふやう、我れ木のえだおくヽむべし、亀木おくはへてはづさずば、われえだおふくむで、とびて水のゆたかなるところへうつらん、あなかしこ、くちあくべからずと雲ふ、かめ悦て承諾して雁のおしへのまヽにするに、とぶ時き人と是お見て、あやしみわらふ事限りなし、かめいかりて是おのるに、くはへたる所はなれておちぬれば、甲われて死ぬと雲へり、信なきかめ甲わる、これよりはじまる歟、一切有部根本毘奈那に見えたり、