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東海道名所記

鈴鹿の坂の下より土山へ二里半、〈○中略〉解坂、蟹が石塔は左のかたにあり、松二本うへたり、むかし此所に妖恠ありて、往来の人おなやまし侍べり、あるとき会解僧一人援おとおりけるに、かの妖恠出たり、僧すなはち問ていはく、なんぢはなにものぞ、名のれきかんといふ、ばけものこたへていはく、両手空おさし、双眼天に麗り、八足横行してたのしむものなりといふ、僧すなはちさとりていはく、横行はよこにゆくとよめり、双眼天に麗るもの両手空おさし、八足にしてよこにゆかば、女はさだめて蟹にあらずやといはれて、すがたおあらはしつゝ、戒おさづかり、ながくわざはひおいたさゞりけり、そのしるしとて、今に塔石あり、