[p.1610]
海道記
八日、萱津お立て、鳴海の浦に来ぬ、〈○中略〉此干瀉お行ば、小蟹ども、おのが穴々より出て惷きあそぶ、人馬のあしに、あはてゝ横におどり平さまに走りて、我あな〳〵へ逃入おみれば、足の下にふまれて死べきは、外なる穴へ走りて命いき、外に恐なきは、足の下なる穴へ走来て、ふまれて死ぬ、憐べし煩悩は、家の犬のみにあらず、愛著は浜の蟹ふかき事お、是お見てはかなくおもふ我我かしこしやいなや〈○下略〉