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重修本草綱目啓蒙
三十一/蚌蛤
真球 かひのたま(○○○○○) あこやのたま(○○○○○○) しんがひのたま(○○○○○○○)能州 一名蚌胎〈事物異名〉 明月 政瑰 摩尼 速不〈共同上蒙古名〉 李蔵珍〈水族加恩簿〉 神胎〈広東新語〉 珍珠児〈訓蒙字会〉 亜思仏〈東西洋考呂宋名〉 谷蝦羅以〈同上下港名〉
従前伊勢真珠お上品とし、尾張真珠お下品とす、今は大村肥前真珠お上品とし、伊勢真珠お次とす、偽雑多ければなり、凡そ真珠は銀色にして光沢あり、微しく透とおりて、瑪瑙の如くなるもの真なり、んの微青色お帯るものは最上なり、形正円なるものお真とす、故に走珠走盤珠の名あり、土州にてころびと呼ぶ、形正円ならざるものは偽なり、然れども介に著たるお離し、採りたるものは、微し長みあり、かびづきと雲ふ、是は形正円ならざれども、真物なり、その体甚堅硬、鉄椎にて垂ても砕け難し、破る時は層層相重りて、鮓荅(せきふん)の如く内外同色なり、又金色なるものあり、大村にてきんずきと雲、土州にてきだま(○○○)と雲、又微紅色お滞るものあり、勢州にてあかだま(○○○○)と雲ふ、皆上品なり、又微黒色お帯るものあり、土州にてごみくひ(○○○○)と雲、勢州にてどろくひ(○○○○)と雲ふ、皆最下品なり、伊勢真珠は皆志摩領にて採る、勢州には真珠なし、今は土州能州にても採る、又よめのたま(○○○○○)〈志州〉と呼ぶものあり、一名ひざがひのたま(○○○○○○○)、〈同上〉伊勢真珠の小なるに、多く此物お雑ゆ、大村真珠もしかり、その色真珠に異ならず、形め正円ならずして微長し、一頭平なるものあり、一頭尖あるものあり、希には正円にして弁別しがたきものあり、上品のよめのたまは、下品の真珠より好く見ゆ、然ども質真珠に比すれば柔軟なり、新渡の真珠は、色白み多くして、和産より軟にして砕けやすし、広東新語に載する養珠に近し、尾張真珠は、色濁白にして光彩なし、或は黒色お帯るあり、是蛤子(あさり)、文蛤(はまぐり)、魁蛤(あかヾひ)等の珠にして、真に非ず、蚌珠はどぶがひの殻の内の色に同じ、たがひのたま(○○○○○○)と呼ぶ、蜆の珠、淡菜(いがひ)の珠も、皆其殻の裏の色に同じ、牡蠣の珠は色白し、石決明の珠は、日本紀にあはびしらたま(○○○○○○○)と雲、万葉集にあはびだま(○○○○○)と雲ふ、今薬舗にては真珠と呼ばず、単にかひのたまと呼びて、価甚だ賤し、その珠紫綠色にして、千里光の内の色の如くして光沢あり、又青色なるあり、形は長あり、楕あり、正円あり、一ならず、至て大なる者あり、全腸珠となりたるあり、又至て小なる者あり、皆腸中にあり、又殻につきたるものあり、青色多し、肉中に胎するものは希なり、その形円にして甚だ真珠に似たれども、真珠よりは微し青みありて硬し、真珠はあこやがひより出る珠なり、李珣の説に、真珠出南海石決明産也と雲、癘瘍全書に、石厥明一名真珠母と雲、本経逢原に、石決明一名珍珠母と、雲ふ、皆非なり、広東新語に、或以為石決明産非也と雲ふ、正説とすべし、