[p.1628]
古今著聞集
二十/魚虫禽獣
東大寺の上人春豪房伊勢海いちしのうらにて、海人はまぐりお取けるお見給ひて、あはれみおなして、みな買とりて、海にいれられにけり、ゆゝしき功徳つくりぬとおもひて、ふし給ひたる夜の夢に、はまぐりおほくあつまりてうれへていふやう、われ畜生の身おうけて、出離の期おしらず、たま〳〵二の宮の御ぜんにまいりて、すでに得脱すべかりつるお、上人よしなきあはれみおなし給ひて、又重苦の身と成て、出離の縁おうしなひ侍りぬる、かなしきかなや〳〵といふと見て、夢さめにけり、上人諦泣し給ふことかぎりなかりけり、
主計頭師員も、市に売けるはまぐりお、月ごとに四十八買て海にはなちにける程に、ある夜の夢に、畜生のむくひおうけたるが、たま〳〵生死おはなれんとするお、かくし給へば、猶本の身にてくるしみおはなれぬよしお、あまどもがなげきてなくと見て、夫より此事とゞめてけるとなん、放生のくどくもことによるべきにこそ、たゞの人の放生するおすらなげき侍るなれば、まして大神宮の御前にまいりて、生死おはなれん事は、まことにうたがひあらじ、