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渡辺幸庵対話
一赤辛螺、あなたにも希也、〈○中略〉到て赤き貝の事也、即明丹に入る一薬也、予も為其あなたより二つ求め来る、其内には類なき赤にし也、〈○中略〉松平長門守様へ〈○註略〉咄候へば、見度と御申故、或時持参して、懸御目に候へば、忝とて御戴き故、夫は上げ申事は威不申と申候得共御聞入なく、ふちお金にてふくませ、根付に被成、いかひ御秘蔵也、是はあなたにて、余程の価する貝也、今一つは大なれ共、色あひ十分に無しとて、取出し見せ被申候得共、少し黒み有之、夫とも終に不見貝なりと、老人被申候、是も代金三十両程と被申候、け様の赤にしおつかわねば、赤薬調合成不申候処、今は援にもかしこにも赤薬お調合候者有之候、何お合せ候哉、夫共に功あればこそ、人々用ひ申候、