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日本山海名産図会

海胆〈一名霊蠃子〉是塩辛中の第一とす、諸島にあれども、越前薩摩の物名品とす、殻円うして、橘子のごとく、刺多くして栗の氈(いか)に似たり、住吉二見などの浜に、此刺お削りて、小児の弄物のとす、形鐙兜に似て、其口殻の正中にあり、まゝ中に漆して器物とす、肉は殻に満ることなく、甚微少して膏あり、海人塩に和して、酒淆の上品とす、猶黄に赤きお帯ぶるおよしとす、大村五島平戸の産お賞す、紫黄なる物は、薩摩島津の産なり、和潤にして香芬甚勝れり、越前の物は黏粘ありて、光艶も他に超たり、又物に調味しては、味噌にかへて、一格の雅味あり、海胆焼海胆田楽など、好事に任せてしかり、 漁捕は海人干潟に出で、岩間にもとめ、即肉お採り、殻お去り、よく洗ひて、桶に収めて亭長(とひや)に送る、亭長塩に和して售る、〈○下略〉