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源平盛衰記

法皇熊野山那智山御参詣
花山法皇御参詣、滝本に三年千日の行お始置せ給へり、〈○中略〉法皇の御行の其間に、様々の験徳お顕させ給ける、其中に竜神あまくだりて、如意宝珠一顆、水精の念珠一連、九穴の蚫貝一つお奉る、法皇此供養おめされて、末代行者の為にとて、宝珠おば岩屋の中に納られ、念珠おば千手堂のへやに納られて、今の世までも先達預之渡す、蚫おば一の滝壼に被放置たりと雲、白河院御幸時、彼蚫お為被見、海人お召て、滝壼に入られたりければ、貝の大さは傘ばかりとぞ奏申ける、参詣上下の輩、万の願の満る事は、如意宝珠の験也、飛滝の水お身にふるれば、命の長き事は彼蚫の故とぞ申伝たる、