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重修本草綱目啓蒙
三十一/蚌蛤
海燕 たこまくら たこのまくら〈佐州〉 あげまき(○○○○)〈紀州〉 はすのはがひ(○○○○○○) てんぐのつめがひ(○○○○○○○○)〈阿州〉 せぴた(○○○)〈江戸〉 がはたらうのこま(○○○○○○○○)〈泉州〉 つむのは(○○○○)〈摂州〉 ぜにのふた(○○○○○)〈加州〉 たこいえんざ(○○○○○○) かぶとえんざ(○○○○○○)〈共同上〉 さくらがひ(○○○○○)〈仙台〉 かつぱのしりかけ(○○○○○○○○)〈同上〉
その形正円にして扁薄、灰色或は白色、大さ四五分より二三寸に至る、面は中央微く隆起して紋あり、五出の桜花の形の如し、腹は平にして荷葉の紋脈あり、中央に一の小孔あり、その口なり、傍に至て小なる一孔あり、体堅脆にして軽く、骨の如し、撼せば声あり、打砕けば内に五片の小骨ありて口お環る、毎片三角にして斜又ありて、蛺蝶(てう)の翅お張るに似たり、故にてふがひ(○○○○)と名く、此品海浜沙磧間に多し、生なるものは海中にあり、外に肉なく角なくして、短刺多く毛の如し、綠毛、或は紫色或紫綠相間はる、已に死する者は毛刺尽く脱す、是時珍説ところの海燕なり、又菊花の形おなすものあり、一種正円にして扁く、大さ五七寸、面は微高く、腹は正平にして、辺に五の長孔ありて面に通ず、中央に一小孔あり、内に蝶形の小骨あり、これお予州にてさるのまくら(○○○○○○)と雲、一名さくらがひ(○○○○○)〈土州〉おごぜのまくら(○○○○○○○)、〈備前〉一種、体厚たして慥粗茶褐色、大さに寸許、面は凸に、腹は凹にして五の溝道あり、予州にてきんつばと雲、此外品類尚多し、一種体小にして五の細長足あるものおくもひとでと雲、足に軟剌あるも、のもあり、是陽遂足なり、此に一種、体に短岐お分ち、九の長足あるものあり、紀州にてかくれみの(○○○○○)と雲ふ、本草原始、及び大和本草に図する所の海燕はりうぐうのいとまき(○○○○○○○○○)〈筑前〉なり、一名いとまきひとで(○○○○○○○)、形扁く五角ありて、桔梗の花弁の殊の如し、大さ一に三寸、面は微く隆起す、青くして藍色の如なる者あり、黄褐色なる者あり、並に丹色の斑点あり、腹は平して丹色、五角ごとに溝あり、中央に口あり、口お環りて小足多くして毛の如し、海中にては微く蠕動す、生時は体軟にして骨なし、已に死する者は乾脆なり、海人拾集て田肥とす、大和本草には、生時五肉角あり、死すれば角脱して円骨のこることお言ふ、然どもいとまきひとでの内に、骨あるものお見ず、一類別種なり、一種、五枝に深く分れて、枝ごとに末尖り、長さ各二三寸にして、槭樹(もみぢ)葉の形の如くなるあり、俗三ひとで(○○○)と呼、或はしとで(○○○)と雲、一名しおで(○○○)、〈阿州〉おこぜの(○○○○○○○)まくら、〈讃州〉よつで(○○○)、〈防州〉やつで(○○○)〈予州〉是本草原始に図する所の海盤車なり、色白き者おしらひと(○○○○○)でと雲、赤き者おべにひとで(○○○○○)と雲、一名おにひとで(○○○○○)、〈摂州〉もみぢがひ(○○○○○)、〈加州〉皆背に軟刺多くして足の如し、又面背倶に軟刺ありて、七枝、八枝、九枝なるもあり、一種しふひとで(○○○○○)、〈紀州〉は一名まつだこ(○○○○)、〈同土〉しわ(○○)阿州でんぱち(○○○○)、〈予州〉がらこ(○○○)、〈同上〉つなつかみ(○○○○○)、〈肥前〉ほ子つぎ(○○○○)、〈同上筑前〉てづるもづる(○○○○○○)、〈摂州〉てんつくもんつく(○○○○○○○○)、てんば(○○○)、てんずもんずる(○○○○○○○)〈共同上〉しやぐま(○○○○)、〈淡州〉のづかみ(○○○○)、〈讃州〉のうつかみ(○○○○○)、なるかしら(○○○○○)、〈房州〉ばんしやがひ(○○○○○○)、〈尾州〉形円扁、大さ一寸許、菊花の形あり、周囲に足多し、足に横紋あり、足ごとに枝お分ち、枝ごとに叉お分ちて、数十叉に至お、皆巻曲す、松蘿の状に似てふとし、赤白二色あり、末と為し、酒にて服して胸痛お治す、又煎じ服して疝お治す、又生なる者、末と為し、酒にて服して、打撲淤血ある者お治す、又足お取焼、性お存して酒にて服し、或末と為し、米飯に和し傅るも可なりと雲ふ、