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有徳院殿御実紀附録
十五
享保の初、江戸の寺院にて、諸宗の僧侶、おもひ〳〵に法義お講論する事行はれ、参詣して聴聞する貴賤群集せり、其中に、牛込円福寺といへる法華宗の寺僧、講談するとて、あくまで浄土宗お謗りけるに、聴衆の中に、浄土宗の僧ありて、大に憤り、双方争論に及びしことあり、かれら円福寺おうらむるまゝに、なしけるにや、府内十四五け所に、牛込円福寺にて、公お呪詛(○○)するよしお、紙にかきて棄置たり、其所より、町奉行所にうたへ出れば、奉行も捨置べきことならねば、かくと聞え上しに、笑はせ玉ひ、かゝる事とりあぐべきにあらず、もしまことに呪詛するものあらば、心まかせに呪詛させよ、少しも患ふべきにあらず、此後かゝる事あり共、訴へ出るに及ばず、速にすてしむべしと仰あり、