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嬉遊笑覧
八方術
嚏の容〈○中略〉万葉集〈十一〉眉根掻(まゆねかき)、鼻火紐解(はなびひもとけ/○○○○)、待八方(まてりやも)、何時毛将見跡(いつかもみんと)、恋来吾乎(こひこしわれお)、集中、はなひる事およめる歌、この外にもあり、詩邶風に、寤言不寐、顧言則嚏といへるとおなじくて、人におもはるれば、はなひるとなり、後には、其意うつりてわがうへお、かげにて後言する者あれば、嚏るとて、わろき事とす、又天竺には、もとよりこれおよからぬ事とするにや、四分律に、世尊嚏諸比丘呪願言長寿、といへること見えたり、古今集、〈雑〉出て行ん人おとゞめんよしなきにとなりのかたにはなもひぬかな、袖中抄に、はなひる事、いかにもよからぬ事なり、年の始に、鼻ひりつれば、祝ひごとおいひて祝ふなり、されば、人の所へゆかんずる初めに、隣の人嚏らむお聞ても、くせ〳〵しからん人は、立どまるべきなり、枕草子、にくきもの、はなひて、誦文する人雲々、